解糖系(かい


解糖系かいとうけい)とは、生体内に存在する生化学反応経路の名称であり、グルコースをピルビン酸などの有機酸に分解(異化)し、グルコースに含まれる高い結合エネルギーを生物が使いやすい形に変換していくための代謝過程である。ほとんど全ての生物が解糖系を持っており、もっとも原始的な代謝系とされている。嫌気状態けんきじょうたい、無酸素状態のこと)でも起こりうる代謝系の代表的なもので、別名嫌気呼吸けんきこきゅう)、無気呼吸むきこきゅう)などとも呼ばれる。




目次

  • 1 種類
    • 1.1 エムデン-マイヤーホフ経路
    • 1.2 エントナー-ドウドロフ経路
    • 1.3 ペントースリン酸経路
  • 2 解糖系の過程
  • 3 解糖系の所在
  • 4 解糖系の役割
  • 5 関連用語
  • 6 外部リンク

種類

解糖系にはいくつかの種類がある。

  • エムデン-マイヤーホフ経路(EM経路)
  • エントナー-ドウドロフ経路(ED経路)
  • ペントースリン酸経路(PP経路)

このなかで、最も一般的なものがエムデン-マイヤーホフ経路であり我々のよく知る真核生物や嫌気性の真正細菌においては全てこの経路がとられている。エントナー-ドウドロフ経路は好気性の真正細菌でよく見られる。ペントースリン酸経路は、その目的のために解糖系に含まれない場合もある。植物がこの経路を所持している。また、古細菌では変形EM経路変形ED経路という以下に述べるものとは細部の異なるものが個々の種によって選択されている。

エムデン-マイヤーホフ経路

エムデン-マイヤーホフ経路(以下EM経路)は、真核生物、嫌気性真正細菌の糖代謝系である。EM経路では10数種類の酵素が関与しており、無酸素状態でもエネルギー通貨であるATPを生産することが可能である。

好気性の生物では好気呼吸の初段階として用いられているが、その場合はピルビン酸まで反応が進み、そこからTCA回路に入ることとなる。逆に無酸素状態であればピルビン酸は乳酸といった有機酸エタノールなどに変化する。発酵過程はこの解糖系で発生している(乳酸発酵、エタノール発酵など)。

また、好気性の生物でも過剰な運動などによりTCA回路の能力を超えたATPが必要になった場合に解糖系によるATP合成が活発になりTCA回路で処理しきれないピルビン酸が生成され、過剰なピルビン酸が乳酸に変換されるため結果的に血中乳酸濃度が上昇する。長らく筋繊維への乳酸の蓄積が運動後の筋肉痛の原因であると信じられてきたが、近年では筋繊維への微細な損傷が筋肉痛の主な原因であるという考え方が主流となってきている(英語版WikipediaのLactic Acidを参照)。

ATPの収支については、反応では4分子のATPが生成されるものの、グルコースやフルクトース6リン酸のリン酸化のために2分子のATPが消費されるので、都合グルコース1分子当たりでは2分子のATPが生成されることになる。また電子伝達系に用いられるNADHは2分子の生産となる。

エントナー-ドウドロフ経路

エントナー-ドウドロフ経路(以下ED経路)は好気性の真正細菌によく見られる代謝系である。関与している酵素の数少なく5種類程度である。この系も無酸素状態で稼動する。

EM経路と同様グルコース1分子あたりピルビン酸2分子を生じ、無酸素状態の場合は乳酸やエタノールを生産する。ただし、ATPの収支ではグルコース1分子辺りATP1分子とEM経路よりも少なく、系が単純な分やや効率は悪い。ただしNADHを2分子生産する。

ペントースリン酸経路

ペントースリン酸経路(以下PP経路)は植物に見られる特有な糖代謝系であるが、エネルギー生産系よりはむしろ物質生産を目的としている系である。脂質、リグニンの生産に必要なNADPHや核酸の生合成に関係している。植組織にはEM経路とPP経路が存在しているが、解糖のうち30%程度はPP経路に回っていると考えられている。なお、解糖系とその両端が接続されており、解糖系の一部とあわせて回路を形成していることから、ペントースリン酸回路とも呼ばれる。

解糖系の過程

解糖系では1分子のグルコースから2分子のピルビン酸が生成し、クエン酸回路に引き渡す。グルコースからピルビン酸までに経る物質を以下に記す。

  • グルコース
  • グルコース-6-リン酸
  • フルクトース-6-リン酸
  • フルクトース-1,6-ビスリン酸
  • ジヒドロキシアセトンリン酸
  • グリセルアルデヒド-3-リン酸
  • 1,3-ビスホスホグリセリン酸
  • 3-ホスホグリセリン酸
  • 2-ホスホグリセリン酸
  • ホスホエノールピルビン酸
  • ピルビン酸

解糖系の所在

全ての生物で解糖系はその反応が細胞質基質で起こる。これは解糖系が細胞内小器官が発生する以前から存在する最も原始的な代謝系であることを反映しているのだろう。真核生物では、解糖系でえられた物質をTCA回路や電子伝達系の反応がおこるミトコンドリアに輸送し、好気呼吸を行う。


解糖系の役割

解糖系はあらゆる生物の糖代謝の最も基本的な代謝系であり、グルコースをエネルギー通貨ATPならびに電子伝達系で用いるNADHの生産などに寄与している。乳酸発酵やエタノール発酵は、解糖系の過程で生じたNADHをNAD+に再び酸化を行ない糖さえあれば解糖系が動き続けられるようにするための経路である。解糖系でえられたピルビン酸はコエンザイムAと結合しアセチルCoAとなって初めてTCA回路で利用される。

関連用語

  • 呼吸
  • クエン酸回路
  • 電子伝達系


外部リンク

  • 解糖 (英語)