プロトン共


プロトン共鳴周波数 300 MHz の NMR 装置


核磁気共鳴(かくじききょうめい、Nuclear Magnetic Resonance, NMR)は外部静磁場に置かれた原子核が固有の周波数の電磁波と相互作用(吸収あるいは放出)する現象である。 核磁気共鳴によるスペクトルを得る分光法を核磁気共鳴分光法(Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy)と呼ぶ。核磁気共鳴分光法のことも単にNMRと略称する。共鳴周波数は被観測原子の同位体種と外部静磁場の強さでほぼ決まるが、同一同位体種の原子核でも試料中での各原子の磁気的環境によってわずかに異なり、そこから分子構造などについての情報が得られる。ひとつのNMRスペクトルで観測される周波数範囲は比較的狭く、一種類の同位体原子だけの試料中での状態を反映したものになる。つまりNMRは同位体種に選択的な測定法である。


分光法なので得られるデータは横軸が周波数で縦軸が強度のスペクトルとなるが、ある原子の共鳴周波数は外部静磁場の強さに比例して変わり、その被観測原子固有の性質とはならない。だが(被観測原子の共鳴周波数 - 基準周波数)/(外部静磁場強度)で定義される化学シフトは被観測原子固有の値となるので、NMRスペクトルの横軸は化学シフトで表すのが一般的である。共鳴位置に現れるピークのことを単にピーク(peak)またはシグナル、信号(signal)と呼ぶが、英文ではsignalが一般的である。


核磁気共鳴分光法、特に 1H あるいは 13C NMR は有機化合物の同定や構造決定に極めて有用である。また、単結晶X線回折と並んで構造生物学のための強力な武器である。 医療用診断装置としてこの現象をコンピューター断層撮影法に応用した方法が磁気共鳴画像法 (MRI) である。


1H NMR スペクトルの例。横軸は化学シフトで表している。




目次

  • 1 原理
    • 1.1 CW-NMR(連続波法 NMR、Continuous Wave NMR)
    • 1.2 FT-NMR(フーリエ変換 NMR、Fourier Transform NMR)
    • 1.3 緩和
      • 1.3.1 縦緩和
      • 1.3.2 横緩和
      • 1.3.3 ブロッホの方程式
    • 1.4 核オーバーハウザー効果 (Nuclear Overhauser Effect, NOE)
    • 1.5 二次元NMR
  • 2 歴史
  • 3 装置
  • 4 測定方法
  • 5 NMR スペクトルの解釈
    • 5.1 化学シフト
    • 5.2 遮蔽
    • 5.3 スピン結合(カップリング)
    • 5.4 溶媒効果
    • 5.5 積分値
  • 6 パルス・シークエンス
  • 7 関連項目
  • 8 外部リンク

原理

原子番号と質量数がともに偶数でない原子核は0でない核スピン量子数 I と磁気双極子モーメントを持ち、その原子は小さな磁石と見なすことができる。それに磁場をかけるとゼーマン効果によって磁場の強度に比例する、一定のエネルギー差を持った 2I + 1 個のエネルギー状態(核スピン 1/2 の核についてはそれぞれの状態をアップスピンとダウンスピンとしばしば呼ぶ)をとる。電磁波の周波数を変化させながら分子に当てていくと、そのエネルギー差に相当する周波数(ラーモア周波数、Larmor 周波数)の時に吸収が起こる。

そのエネルギー差は原子の化学的な環境によって異なるので、吸収した電磁波の周波数からその原子の化学的な環境を知り、ひいては化学構造を詳細に知ることができる。主に対象となる原子は水素または炭素(通常の 12C ではなく核スピンを有する同位体 13C(カーボン・サーティーン)を測定する)であり、これらについては膨大な資料が存在する。水素原子を対象とするものを 1H NMR(プロトンNMR)、炭素原子を対象とするものを 13C NMR(カーボン・サーティーン NMR)と呼ぶ。他にそれ以外の元素についても核スピンを持ちさえすれば原理的には測定可能であり、現代の有機化学では最も多用される分析手法の一つである。測定する核種によっては、磁気回転比や天然存在比等の違いで感度や線幅が異なる。

CW-NMR(連続波法 NMR、Continuous Wave NMR)

初期に用いられた測定方法で、ある一定の磁束密度の磁場のもとで試料に電磁波を周波数を連続的に変化させながら当てていき吸収量を測定するか、または磁場を変化させながらある一定の周波数の電磁波を当て吸収量を測定する方法である。通常の電磁石を用いるならば磁場を変化させる方が周波数を変化させるよりも高精度でできるので、後者の方法が用いられる。

FT-NMR(フーリエ変換 NMR、Fourier Transform NMR)

現在主流の測定方法である。線形応答理論によればインパルス応答関数のフーリエ変換は周波数応答関数を与える。周波数応答関数はある周波数の電磁波が吸収される程度を表す関数であるから、これは NMR スペクトルに他ならない。それゆえにインパルス(パルス状の電磁波)を試料に当ててすべての核を一斉に励起し、その結果放出される電磁波、すなわち自由誘導減衰 (Free Induction Decay, FID) を測定し、これをフーリエ変換することで NMR スペクトルを得ることができる。これにより測定時間が大幅に短縮された。また高速フーリエ変換のアルゴリズムの開発によりフーリエ変換の計算時間も短縮され、二次元 NMR 測定のような膨大なデータを処理する必要のある測定も実用可能となった。 なお、CW-NMRは照射された電磁波の正味の吸収を測定しているのに対し、FT-NMRでは電磁波によって生成したスピンのコヒーレンスに伴う磁化を測定している違いがある。FT-NMRではさまざまなコヒーレンスを選択的に生成することによって特定の情報のみを抽出する多くの測定法が開発された。

緩和

NMRにおける緩和とは電磁波を受けることによって励起された核がエネルギーを放出して基底状態に戻ること、あるいは核スピンのコヒーレンスが消失することである。緩和の原因となるのは周囲の電子や原子核の持つ磁気双極子モーメントや電気四極子モーメントである。これらから受ける磁場が分子のブラウン運動や結合の回転によって変化する。この不規則な磁場の変動の中のエネルギー準位の差に相当する周波数成分によって状態間の遷移が起こり、緩和が起こる。

核自身の持つ電気四極子モーメントは緩和を著しく加速させる。核スピン 1/2 の原子は電気四極子モーメントを持たず緩和速度が小さいため、測定に長い時間が必要である。一方、緩和する前にさらにスピンを操作することができるため、これらの核に対しては様々な測定法が開発されている。そのため、核スピン 1/2 の 1H, 13C, 15N, 19F, 29Si, 31P といった核が NMR の測定の中心を占める。

逆に核スピン1以上の核は、一部の核を除けば緩和速度が著しく大きいため、時間とエネルギーの間の不確定性原理によりエネルギー準位に幅ができる。すなわち共鳴周波数に幅があるのでシグナルがブロードとなり分解能が低くなる。

複数回の積算を行う場合には、緩和に必要な時間より十分長い間隔をおいて次の測定を開始しないと感度低下がおこる。

縦緩和

スピン-格子緩和とも言い、電磁波を照射することで上の準位に上がったスピンが外(格子)にエネルギーを放出しながら元のエネルギー準位に戻る過程のこと。この時定数は T1 で表される。

横緩和

スピン-スピン緩和とも言い、スピンの位相がそろった状態から位相がバラバラの状態になる過程。この時定数は T2 で表される。 エントロピー的な要請から、T1T2 となる。

ブロッホの方程式

フェリックス・ブロッホは磁化の時間的な変化を以下の式で表現した。静磁場Bが掛けられており、熱平衡状態の磁化をMz0、M(t)を時間tの磁化、Mx(t),My(t),Mz(t)をそれぞれそのx,y,z方向の成分とすれば

dMx(t)/dt = (M × γB)x - Mx(t)/T2
dMy(t)/dt = (M × γB)y - My(t)/T2
dMz(t)/dt = (M × γB)z - (Mz(t)-Mz0)/T1

(M × γB)xは外積M × γBのx方向成分を表す。

核オーバーハウザー効果 (Nuclear Overhauser Effect, NOE)

ある原子 A が吸収する電磁波を照射しつつ電磁波を掃引して全体の吸収を測定を行なうとする。このときすべての原子について、そのエネルギー差自体は変化しない。しかし、原子 A と空間的に近い位置にある原子では2つのエネルギー状態の占有率が原子 A への照射が無かったときから変化する。そのため、普通に測定した NMR スペクトルと照射を用いて測定した一次元 NMR スペクトルを比較すると、ピークの面積(積分値)が異なる。このように照射によりエネルギー状態の占有率が変化すること、またそれに付随するスペクトルの変化を核オーバーハウザー効果という。NOE を利用すると原子 A と積分値の変わったピークに相当する原子は立体的に近い位置にある、ということが分かる。

二次元NMR

FT-NMR においてはパルスによってコヒーレンスを生成した後、さらにパルスを当てることによりコヒーレンスをその核と相互作用のある核に移動させることができる。このことを利用してある原子と別の原子の間の相関を調べるのが二次元 NMR 分光法である。

二次元 NMR においては測定したい相関に応じて、複数のパルスがある決められた順序、時間間隔で当てられる。この順序、時間間隔をパルス・シークエンスと呼ぶ。どのパルス・シークエンスも大体、準備期-展開期-混合期-検出期の4つの部分からなる。

  1. 準備期: 相関を測定したい第1の核にコヒーレンスを生成させる(直接第1の核にパルスを照射してコヒーレンスを生成する場合は準備期は無い)
  2. 展開期: 第1の核のコヒーレンスが時間発展する状態
  3. 混合期: 第1の核と相互作用のある第2の核へコヒーレンスを移動させる(検出パルスにより直接第1の核から第2の核へ移動させる場合は混合期は無い)。このとき移動するコヒーレンスの大きさは展開期の長さと第1の核のラーモア周波数によって変化する。
  4. 検出期: 第2の核からの FID を測定する。FIDの強度は第1の核から移動したコヒーレンスの大きさに比例する。

展開期の時間の長さ(普通 t1 で表す)を変えていくと、検出期の FID の強度が第1の核のラーモア周波数で振動する。FID をフーリエ変換した後の第2の核のシグナルの強度も第1の核のラーモア周波数で振動していることになる。そのため、第2の核のシグナルの強度をフーリエ変換すると、第1の核のラーモア周波数を取り出すことができる。これにより相互作用している2つの核の情報を取り出すのが2次元NMRである。

歴史

  • 1936年 コルネリウス・ゴルテルがミョウバンとフッ化リチウムの結晶を用いてNMR信号の検出を試みるが失敗。
  • 1938年 イシドール・ラビが塩化リチウムの分子線を用いてNMR信号を検出することに成功。(1944年ノーベル物理学賞受賞)
  • 1942年 コルネリウス・ゴルテルが論文中で初めてNuclear Magnetic Resonanceの言葉を使用した。
  • 1946年 エドワード・パーセルがパラフィン、フェリックス・ブロッホが硝酸鉄(III)水溶液を用いて凝縮系のNMR信号を検出することに成功。(1952年ノーベル物理学賞受賞)
  • 1950年 硝酸アンモニウムの窒素のNMR信号が2つの周波数を持つこと、すなわち化学シフトが発見される。すぐに水素やフッ素でも化学シフトが発見された。また、六フッ化アンチモン酸ナトリウムのアンチモンのNMR信号が分裂していることも発見された。これはスピン結合の発見である。これらはNMR分光法の端緒となった。
  • 1950年 アーウィン・ハーンがスピンエコーを発見。
  • 1953年 アーノルド・オーバーハウザーがオーバーハウザー効果を理論的に予測。すぐに効果の実在が確認され、NMR分光法の感度向上や立体配置の決定に利用されるようになった。
  • 1954年 久保亮五、森田和久らにより線形応答理論に基づいたフーリエ変換NMRの基礎理論が提唱された。
  • 1956年 ウェストン・アンダーソンが多量子遷移の観測に成功。
  • 1957年 フッ化カルシウムを用いてフーリエ変換NMRがはじめて測定された。
  • 1958年 レイモンド・アンドリューがマジック角回転法を提唱。高分解能固体NMRの測定が可能となった。
  • 1962年 スヴェン・ハートマンとアーウィン・ハーンがハートマン・ハーン効果を発見。
  • 1966年 リヒャルト・エルンスト、レイモンド・アンドリューによりフーリエ変換NMR分光法が確立する。(1991年にエルンストはノーベル化学賞受賞)
  • 1971年 ジーン・ジェーナーが講演で2次元NMRのアイデアを提案する。
  • 1976年 リヒャルト・エルンストが2次元NMRを測定する。
  • 1983年 フランク・ヴァンデヴェンら、オーレ・ソレンセンらのグループにより直積演算子法が導入された。
  • 1997年 クルト・ヴュートリッヒによりTROSYが提唱された。高分子の高分解能測定が可能となった。(2002年ノーベル化学賞受賞)

装置

NMR の装置は一定の磁場(外部磁場)をかけるコイル、電磁波の発生器と検出器、データ処理のためのコンピューターで構成される。なお測定に際しては、感度(強力な磁場の元では二つの状態のエネルギー差が大きくなり、その占有率の差が大きくなるため感度が上がる)および分解能を上げるために非常に強力な磁場を発生させるために低温の液体窒素や液体ヘリウムを使った超伝導磁石を使うことが多い。

クエンチ
何らかの理由で超伝導状態が破れてしまうこと。超伝導状態で無くなることで電気抵抗により発熱し、冷媒として用いている液体ヘリウムなどが一気に気化するため、酸欠状態になる可能性があり非常に危険である。
ロック
長時間の測定を行なうと、その間に室温の変動などが原因で超伝導磁石の磁場強度が変化することがある。この変化を追跡し補正するための仕組みがロックである。通常ロックは重水素化した溶媒の重水素原子の NMR 信号(ロック信号)を測定し、これが常に一定の周波数に保たれるように磁場を調整し続けることによってなされる。
シム (Shim)
NMR を測定する際には試料溶液内の磁場の方向・強度は完全に均一でなければならない。しかしメインの超伝導磁石では微調整が不可能であるため、この調整を行なうためのコイルが設置されている。これをシムコイルといい、通常超伝導磁石クライオスタット内のシムコイルをクライオシム(コイル)、磁石のクライオスタット外でボア内プローブの外側にあるシムコイルを室温シム(コイル)と呼ぶ。これらコイルに流れる電流の量を調整して磁場を均一にすることをシム調整という。シムとは詰め木という意味で、かつて電磁石で NMR を測定していた時代に磁場を均一に調整するために装置に木の板を詰めたりして調整していたことに由来する。

測定方法

通常の溶液測定では測定する化合物を溶媒に溶かし、溶液を無機ガラス製の NMR チューブに入れ、磁石内に設置されたプローブに入れて測定する。有機化学で一般に使われる溶媒には水素原子が多量に含まれており、このような溶媒を使ってプロトン NMR を測定すると溶媒成分の信号が非常に強くなり、溶質信号の観測が非常に困難になる。そこでこの測定に用いる溶媒として、水素を含まない四塩化炭素、あるいは水素原子を重水素に置き換えた溶媒(重溶媒)を用いることが多い。溶液測定用装置で固体試料をそのまま測定した場合はほとんど信号は観測できず、固体試料測定には後述の固体NMR用の装置を使う。ただし食品や動植物など流動性成分を含む試料では信号が観測される場合もある。

低温NMR
非常に不安定で室温では壊れてしまうような分子については、液体窒素などを用いてマイナス数十度以下の低温で溶液 NMR の測定を行う。また、常温では一瞬で進行してしまう反応を低温で観測することにより、律速段階や反応次数などを知ることが可能になる。さらに、通常の温度では単一の化合物として存在している化合物であっても低温では異性体として観測されることもあり、分子の構造をより詳しく知ることができる。ただし、測定する温度領域で液体である溶媒を用いないと低温にしたときにサンプルが凍ってしまうので注意が必要である。さらに、固体 NMR ではさらに低い温度領域での測定も可能であり、極低温領域では磁気共鳴温度計としての利用も可能である。
固体NMR
測定するサンプルの溶解性が低いとき(高分子など)や固体状態での分子の動的挙動などを調べる目的で用いられる。基本的な原理は溶液での NMR と変わらないが、溶液状態と異なり分子の回転運動等は束縛されているので、分子の向きによって異なる化学シフトを与えることで線幅が広がることが珍しくない。また、試料管を磁場方向に対し54.7度 () 傾けたマジック角で高速に回転することで、線幅を細くする方法もある。
また、固体 NMR には、双極子相互作用、四極子相互作用など、溶液の NMR では分子運動のために平均化されて見えなくなっている情報が含まれているため、それらを測定する目的で用いられることもある。

NMR スペクトルの解釈

核磁気共鳴分光法から得られる主なシグナル情報には、化学シフト、強度(積分値)、緩和時間、スピン結合、NOEがある。これらのシグナル情報を解釈することにより分子構造や運動性に関する情報が得られる。

化学シフト

測定によって得られたピークの位置は、そのままの周波数の値で表すと磁場の強度に依存してしまうため、基準物質からの周波数差を磁場の強度で割った、化学シフト δ で表す(δ = (吸収のあった電磁波の周波数 − 基準物質の吸収周波数)/(磁場の強度) )。化学シフトは普通数–数百ヘルツであるのに対し、一般的な NMR 装置の磁場強度は 数百メガヘルツなので、δ の値は ppm で表わす。CW-NMRが良く使われていた時代の名残で、高周波数(δ が大きい)側を低磁場、低周波数(δ が小さい)側を高磁場と呼ぶ。また初期のNMRの文献では化学シフトτが使用されていることがある。τスケールの化学シフトはδスケールの化学シフトとτ=10-δの関係がある。 基準物質としては1H, 13Cではテトラメチルシラン(tetramethylsilane,TMS)を用い、このシグナルを0ppmとする。通常は内部標準として試料溶液に溶解するが、測定溶媒が重水などの時はTMSが溶解しないので外部標準とするか、別の物質が用いられる。また、1Hでは溶媒中に含まれる未重水素化体、13Cでは溶媒自身ピークが基準に用いられることもある。 化学シフトは測定する化合物の構造や電気的・物理的状況、溶媒などにより決まり、これらから得られる情報を利用して化合物の同定や構造の推定を行う。有機分子の部分構造と化学シフト値には相関があり構造の推定に利用できる。またデータ集やスペクトルデータベースも利用できる。

遮蔽

遮蔽(しゃへい)とは、観測する核の周囲に外部磁場とは逆向きの磁場が発生することで、2つの状態間のエネルギー差、すなわち共鳴周波数を小さくする効果がある。このエネルギー差(スペクトル上では化学シフト)と観測核周辺に存在する置換基の電子供与性および電子求引性には大きな相関がある。これは、観測する核の周囲の電子密度が高いほど遮蔽が強く起こるためである。逆に外部磁場と同じ向きの磁場が発生して共鳴周波数が大きくなることを脱遮蔽という。電子により強く遮蔽された核ほど高磁場である右側に、脱遮蔽された核ほど低磁場である左側にピークが現れる。

スピン結合(カップリング)

ある核 A のそばにある核 B のエネルギー準位は核 A がアップスピンかダウンスピンかで若干異なる値を持つ。これにより、本来核 B が吸収するエネルギーの電磁波とは若干異なる2つの周波数で吸収が起こる。すなわち核 B に対応するピークはスペクトル上では同強度の二つのピークとなって現れることになる。このような現象をスピン結合(カップリング)と呼び、エネルギー差をヘルツ単位で表したものを結合定数(カップリング定数)または J 値と言う。なお、核 A を照射しながら核 B を測定すると核 A−B 間のカップリングが消失する。このような測定方法をデカップリングという。13C の通常の測定においてはすべての 1H をデカップリングしながら測定して 13C−1H 間のカップリングによる分裂を消失させ、スペクトルの単純化を図る。

溶媒効果

化学シフトの値は基本的には溶媒によって大きく変化はしない。しかし、芳香族化合物などは環電流の効果により溶質分子に遮蔽効果をもたらす。また、溶媒はその極性の違いなどによって分子間および分子内の相互作用にも影響を与える。

積分値

原理的にはNMRのピーク面積(積分値)は試料中に存在するそのピークを与える被測定原子数に比例する。NMR信号の強度は遷移を起こす準位間の占有数差に比例し、占有数差はボルツマン分布にしたがって準位間のエネルギー差の指数関数となっている。しかし化学シフトの異なる被測定核のエネルギー準位の違いは、観測に使われるエネルギー準位間隔に比べて著しく小さいため、占有数差はどの核もほとんど同じとみなすことができる。 したがって基準試料等を用いずとも、それぞれのピークに対応する試料中の被測定原子同士のモル比が求められる。この特性は、分子構造の推定や混合物の組成分析に有用である。 ただしFT-NMRでパルス繰り返し時間が緩和時間に比べて短い条件で測定したりするとピーク強度の飽和により積分値が少なく観測されるために、上記のような定量性は失われる。FT-NMR普及以前のH-NMRはほとんど低速掃引CW法測定だったので定量性が成り立っていたが、FT-NMRで複数回積算する場合はH-NMRと言えども緩和時間に注意する必要がある。

パルス・シークエンス

FT-NMR においてはパルスによってコヒーレンスを生成した後、さらにパルスを当てることによりコヒーレンスをその核と相互作用のある核に移動させることができる。これを利用して測定核のある相互作用だけを取り出したり、感度を増強したりすることが可能となる。これを実現する一連のパルスの組み合わせがパルス・シークエンスである。著名なパルス・シークエンスにはアクロニムによる略号があり、それによって呼称されることが多い。

  • APT
  • INEPT
  • DEPT
  • COSY
  • DQF-COSY
  • HOHAHA
  • TOCSY
  • NOESY
  • ROESY
  • HMQC
  • HSQC
  • HMBC
  • INADEQUATE
  • TROSY

関連項目

  • 電子スピン共鳴 (ESR)

外部リンク

日本核磁気共鳴学会

この項目「核磁気共鳴」は、物理学に関連した書きかけの項目です。加筆・訂正などをして下さる協力者を求めています。


この項目「核磁気共鳴」は、化学に関連した書きかけの項目です。加筆・訂正などをして下さる協力者を求めています。加筆・訂正を必要とする内容について、この項目のノートでの議論を歓迎します。